平成の三重塔

 埼玉伝統工芸会館(埼玉県比企郡)で「平成の三重塔」の模型がありました。

平成の三重塔

 この三重塔は、ものつくり大学の1期生、2期生が中心となり、2年半の歳月を経て完成したものです(2002年12月~2005年3月)。屋根の上に立つ金属製の装飾を相輪(そおりん)といいますが、この先端までの高さは約4,200mm、第1層(初重)の屋根の幅は1辺1,810mm(6尺)の大きさです。材料は、全て檜(ひのき)で、主要部分は木曽(尾州)檜を使っています。
 社寺建築は、荘厳な大きな屋根が特徴ですが、重量が非常に大きくなってしまいます。そこで、大きく張り出した瓦屋根を支えるために、柱を中心に斗(ます)、肘木(ひじき)、尾垂木(おだるき)といった組物を積み重ねて、支える部分を強化しています。木造の塔が地震で倒れたことがないのは、積み重ねられた組物により柔軟性に富む構造体となっているからです。さらに、これらの組物は木造建築の美しさを演出するものでもあります。
 平成の三重塔は、和様と呼ばれる建築様式でつくられています。和様は、中国伝来の建築様式を日本風に改良改善した様式で、過度の装飾がなく、建物自体が美しいのが特徴です。和様の塔は、数多く存在しますが、この三重塔は、滋賀県犬上群甲良町池寺の西明寺三重塔(鎌倉後期、国宝)を参考にして、約6分の1の大きさになった時に最も美しくみえるよう、柱の太さや垂木、組物などの各部材寸法から、屋根の反りや各層の柱の感覚など全体のバランスを調整しています。
 五重塔や三重塔は、お釈迦さまのお墓を起源とするもおです。お釈迦さまのお墓は、円形の塚で、これを梵語(ぼんご)でストゥーパといいます。ストゥーパは「積み重ねる」という意味で、中国では「卒塔婆」の字が当てられました。形も半円から台が付き、暑さをしのぐ意味から傘が付けられ、仏教的宇宙の五大元素、地(四角)水(円)火(三角)風(半月)空(宝珠)の五輪を重ねる五重塔へと発展します。五重塔は石製から木製へ、そして薄い板へと変わりました。建てる目的も変化し、故人の名を書いて追善供養の方法のひとつとなりました。
 この卒塔婆が巨大な塔へと変化したのが、三重塔や五重塔です。塔は荘厳な姿が絵を引くものですが、仏教的に肝心なのは屋根の上にある相輪の部分です。この相輪の一番上、球場の部分を宝珠(ほうしゅ)といいますが。ここがお釈迦さまの遺骨を納めるところになります。宝珠の形は円満成就、完全無欠を表しています。
 しかし、この三重塔は、宗教的な意味を込めたものではなく、高度な日本建築の技法と、技能を追及するためにつくられたものです。全ての部材は、100分の1mm前後の精度で仕上げられています。そのために、学生達は鉋(かんな)や鑿(のみ)を研ぎ澄ます鍛錬からはじめました。どうぞ、遠くから日本建築のバランスの美を、近くに寄って寸分の隙間もない技能の高さを、そして妥協をしない職人の心を感じ取ってください。

ものつくり大学三重塔プロジェクト(info@monotsukuri.net)
監修:岩下繁昭、蟹澤宏剛
技能・技術指導:伊藤雄次(大工 狭山市在住)、遠藤良雄(板金 上尾市在住)
参加学生:高草知泰、森 雅志、千明清市、橋村 卓、星野公亮、星野秀隆、根岸正名、財間俊行、松崎良則、古屋正人、鈴木 慎、湯口佳奈 他多数

(2018年10月27日現在)